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『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』

久々に昔の映画を。小津安二郎監督の初期(1932年製作)の無声映画。
映画が始まっても一向に音が鳴らないので、DVDプレーヤーの故障かと思ってしまった。普通たいていの無声映画には音楽ぐらいは流れるものだが、本作は音楽すら無いまるっきり無音!ホントのサイレント。果たして楽しめるだろうか…と不安がよぎったものの、すべて取り越し苦労だった。音なんて無くても、こんなに面白い映画が作れるなんて!どんなに音で溢れた映画より心に響く映画だった。

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とにかくやんちゃ兄弟の一挙一動が面白くて、画面に釘付け。顔は全然似てないのに、動きは一心同体。コミカルな動作はまるで漫才コンビのよう。弟を演じた突貫小僧(のちの青木富夫)のおどけた表情が楽しい。兄弟の父母は斉藤達雄と吉川満子。プロフィールによると、斉藤さんは183cm、吉川さんが161cmというのだから、76年前の日本人としてはかなりの「長身夫婦」である。

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兄弟は自分の父親が一番偉いと信じていたのに、ある日自分たちの級友・太郎の父親である上司にペコペコとご機嫌を取っている父の姿を見てしまい、ショックを受けてしまう。「お父ちゃんは太郎ちゃんのお父ちゃんにあんなに頭を下げて、ちっとも偉くないじゃないか」と父に詰め寄る兄弟。子供が描いた父親の姿と現実の姿のギャップ、子供の目から見た大人の世界の矛盾…。お父さんの立場も分かるだけに、なおさらやるせない。兄弟「お父ちゃんはなんで重役じゃないの?」 父「太郎ちゃんとこはお金持ちだからだよ」 兄弟「お金があったら偉いの?」 ほのぼのとした展開の中に、こんなシビアなテーマも盛り込んでしまうなんて、さすが小津監督。

一家の住むのどかな田舎町が東京の蒲田と分かった時は驚いた。家の目の前を走っている一両編成の列車はどうやら目蒲線(現在の多摩川線)らしい。76年前の貴重な東京の風景。お父さんの会社の同僚役で笠智衆が出ている(ノークレジット)。当時28歳、私が見た今まで一番若い笠さんかも。その爽やかな二枚目っぷりに驚いた。

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↑子供たちの中に、背中にこんな貼り紙を貼られている子が!(笑)

「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」 (32年)
監督・原作=小津安二郎 
出演=斎藤達雄 吉川満子 菅原秀雄 突貫小僧 坂本武 小藤田正一
by pandarin_0728 | 2008-09-13 20:34 | DVD・映画鑑賞記
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